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かたわらに茶がある日本の未来

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「梅雨時の楽しみ」

歴史・文化

2024年6月28日

抹茶だけじゃない

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 あらゆるものの値段がここ数年じわりじわりと上がっています。じわりじわりだから、日常的にはあまり意識していませんが、ちょっとした違和感からはじまり、ある時、突然これまでの価値観を大きく揺るがすことがあります。例えばコンビニで買うランチ。おにぎり1個、サンドイッチ1個、ペットボトルの煎茶1本。数年前にはなにかの景品でもらった500円のクオカード1枚で消費税まで支払えました。なんなら、レジ横で小さなチョコレートのひとつも買うことができたような気がします。それが、今や到底500円では太刀打ちできない現実を突きつけられたとき!「一体なんでこんなことに?」あらためて、買ったものの値段を調べると、犯人は新商品のシールを胸に貼った具だくさんのサンドイッチ。これひとつで400円超え。ブランド米を使ってこだわったおにぎりも伏兵、250円也。さてこれだけで700円近くに。なんだか大変なショックです。そんな値上げを横目に、ペットボトルだけは安心の安定価格。変わらぬお値段に大変な企業努力を感じます。
 けれど、その一方で、コーヒーチェーン店で人気の抹茶のラテやクリームたっぷりのフローズンドリンクは、じわりじわりの値上げがどんどん進み、今やフローズンドリンクは1杯700円に届く勢い。なんということ、700円といえば、ちょっと前までラーメン1杯食べられた値段です。そう、今や抹茶は日本茶界を代表するスーパースター、抹茶が世界で活躍するのは望むところ。けれど、それにしても煎茶との格差が激しすぎるのではないかと、判官びいきの人間としては、出世街道驀進中の抹茶を横目でちらり。なんだか慎ましい煎茶がとてもいじらしくて切ない気持ちに。確かに煎茶は派手さに欠けるかもしれないけれど、ノンシュガー、ノンカロリーでとってもヘルシーなうえに、飽きのこない味わい。そして、この物価高の折に変わらぬ低価格。ああ、世界中の人にもっとお伝えしたい。「抹茶なんちゃらだけが日本茶じゃないよ!」

煎茶の楽しみ

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 抹茶の活躍は今や飲み物にとどまらず、スイーツの分野でも大躍進。日本人だけでなく外国の方からも、抹茶チョコや抹茶ジェラートなどが大人気。世界で抹茶が活躍し成功することは、もちろん日本人として大変誇らしく、例えるなら世界で活躍する、日本人スポーツ選手を見ているかのような気持ち。
 スイーツの世界では、あとに続けと煎茶やほうじ茶など、日本茶界のネクストスターの売り出しにかかっています。特にほうじ茶は独特の香ばしさが、抹茶と差別化しやすいこともあって、続々と商品化が進んでいます。ペットボトル飲料の世界でも、カフェインが少なく飲みやすいと最近注目を集めています。では、煎茶の未来はどうなるのか?
 日本で生産される茶は、緑茶と半発酵の烏龍茶、紅茶に分かれます。それらをあわせると、全国で約68,000tが生産されていて、そのうち抹茶の原料となる碾茶の生産量は5%程度のごく少量。茶の生産量の半分は煎茶なのです。その後に摘まれる番茶までを含めると、日本で生産される茶のほとんどが煎茶の仲間といっても過言ではありません。ここはひとつ、様々な味わい方をあらためて皆さんに知っていただいて、煎茶に堂々と世界で活躍してほしいもの。日本全国で生産される煎茶は様々な品種があり、味わいもそれぞれ違います。静岡を中心として多く栽培されているのが「やぶきた」という品種。オーソドックスで癖がない味わいは、例えるならコシヒカリのような煎茶界のエースです。もちろん、急須に温かい湯を注いで淹れてもいいし、ティーバッグで淹れてもおいしく味わえます。そして、初夏のこの季節におすすめしたいのはやっぱり冷茶。冷茶の淹れ方はいくつかありますが、梅雨の時期には、熱い湯で濃い目に淹れたお茶を氷で一気に冷やすのがいい。熱い湯で出したお茶には、抗菌効果のあるカテキンという成分がたっぷり含まれていて、食中毒の予防にも効果大。お湯出しなら、短時間で緑茶本来の苦みや渋みが感じられる冷茶が出来上がります。焼酎などとあわせて大人の時間を楽しんでみませんか?

日本の四季

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 日本の四季のうつろいが随分様変わりしています。寒くない冬、やけに暑い春、一瞬で終わる秋、そしてやたらと早く訪れる台風の夏。少し前、梅雨といえばシトシトと長雨が降ったものでしたが、今や、いつになってもはじまらない空梅雨かゲリラ豪雨か。季節に対する表現も変わってしまいました。それでも、本州では6月に入ると、そろそろ梅雨の季節だなと身構える気持ちになります。なんだか理由もなくだるくて気分もすぐれないという人も少なくないでしょう。そんなときにはストレス軽減やリラックス効果の高いお茶がおすすめ。日本茶のうまみ成分にはテアニンと呼ばれる、茶特有のアミノ酸が含まれていて、このテアニンにはリラックス効果の他に、睡眠の質を高めたり、ストレスを軽減し、不安や苛立ちを解消したりする効果があります。さらに、血液の流れを良くしたり、女性特有の悩みを改善したりする効果も。テアニンは特に新茶や玉露などのかぶせ茶、抹茶に多く含まれる成分ですが、そのほかの茶種にもちゃんと含まれていますから、お子さんや妊娠中の方、お年寄りには、カフェインの少ない玄米茶や、水出しなど低温で抽出したかぶせ茶などがおすすめ。日本の梅雨は短くなったとはいえ、せっかくなら健康的に過ごしたいもの。上手にお茶を活用して賢く雨を楽しみませんか?

文:原田亜紀子 絵:土屋弘子