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かたわらに茶がある日本の未来

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「茶と時間の相関関係」

茶種・淹れ方

2024年5月15日

贅沢な日本茶時間

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 新茶の季節です。せっかくなら急須でリーフティーを飲んでみませんか?
 日本茶には、さまざまな種類があります。煎茶、深蒸し茶、番茶、玉露、抹茶、ほうじ茶など、その種類ごとに香りや色、味わいに特徴がありますが、いっそうおいしく味わうなら、それぞれに最適な方法で淹れたいもの。お茶の淹れ方で大切なのは、茶葉と湯の量、湯の温度や浸出時間、そして水。日本茶にはカルシウムやマグネシウムの含有量が少ない軟水が適しています。日本の水道水は軟水なので日本茶にはぴったり。けれど、水道水にはカルキなどが含まれているので、まずは沸騰させてカルキ抜きをします。やかんや電気ポットで2~3分沸騰させ続けます。この時お湯の温度は100度。ただ100度は繊細な日本茶には少々熱すぎです。そのため、湯冷ましします。湯冷ましには、専用のツールがなくても大丈夫。やかんから1回、湯のみにそそぐと5~10度温度が下がります。それを繰り返して茶種にあった湯の温度に変えていきます。
 ほうじ茶、玄米茶、番茶は90~95度の熱々のお湯でもおいしく淹れられますが、煎茶は70度、玉露は50度まで温度を下げた方がうま味の強いお茶になります。湯冷ましをした後は、およそ1~3分、茶種にあわせて浸出時間を取って、1杯の日本茶が淹れられます。お湯が沸いたらすぐに淹れられる紅茶などと比べると、日本茶のなんとデリケートなこと!
 忙しい現代人にとってはリーフで淹れる1杯の日本茶が贅沢なものになったのも納得できる気がします。

縁起がいい

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 今年(2024年)の5月15日は、大安吉日、さらに一粒万倍日。暦の上ではとても縁起の良い日です。大安は六曜の中のひとつ。中国で始まった思想で日本には鎌倉時代に伝わったとか。「大いに安し」、ものごとが順調にうまくいく日という意味があるといわれ結婚式や引っ越しなどに好まれる日。そして、一粒万倍日。こちらは日本の暦の縁起の良い日。ところで、この一粒万倍日、いつから私たちの暮らしに浸透しはじめたのでしょう?宝くじ売り場や財布売り場などで「今日は、一粒万倍日」という文字が躍りだしたのはつい最近のこと。一粒万倍日とは、何かを始めると大きな結果を得やすいと言われる日で、その由来には一粒の種が大きな収穫につながるようにという願いが込められています。よく、日本人は縁起をかつぐことが好きだと言われますが、そこには、自然と共存し、同じ土地を耕し作物を育ててきた日本人の歴史と文化が強く影響しているのではないでしょうか。
 そう言えば、お茶にも縁起をかついだ文化や言葉がたくさんありますが、中でも身近なのは「茶柱が立つ」という言葉。昔はお茶に茶柱が立つと、今日はいい日になりそうだ、と朝の一服でその日を占ったものでした。茶柱が立つことが喜ばれるようになった由来にはいくつかの説があるようですが、茶の茎を大黒柱になぞらえて縁起が良いとした説や、滅多にないことの象徴説、そして、そもそもは“出物”という、高級茶からは取り除かれるべき茶の茎に、縁起という付加価値をプラスしたマーケティング戦略だったという説も。なるほど、昔の人もいろいろ考えていたんですね。どちらにしても茶柱はリーフティーならではの縁起物、ひと手間かけたご褒美か。と思ったら、なんと最初からティーバッグに立ちやすい茶柱をつけたお茶が売られていました。日本人の縁起への強い思いは、文化や商品のアップデートに深く関わっているのかもしれません。

おいしい気持ち

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 「日本茶が嫌い」。ある調査によると、そう答えた日本人は数パーセントで、ほとんどの人が日本茶を受け入れているようです。お茶には甘味やうま味、渋味、苦味といった成分が含まれていて、茶種や産地、製造方法などによって味わいが変わります。けれど「おいしいお茶」の定義は難しく、地域によっても大きく異なるうえ、近年はますます多様化が進み、その人の育った環境や好み、年齢によっても大きく違います。例えば、高級茶の代名詞ともいえる玉露、「ふくよかなうま味と濃厚な味わい」が特徴ですが、ある人たちにとっては「濃すぎて飲みにくい」と最近は人気に陰りが。それに代わって赤丸急上昇中なのは、リーズナブルで、以前だったらお客様に出すにはちょっとためらわれるような、ほうじ茶や番茶。「さっぱりとした味わいで飲みやすい」と幅広い世代から支持を集めています。おいしさの感じ方はひとそれぞれで自由。でも、もしかすると専用の茶器を使って、低温でじっくり、ほんのちょっぴり淹れる玉露に比べ、高温の湯で、さっとたっぷり淹れられるほうじ茶の方が、現代人のライフスタイルにマッチしているのかも。
 そもそも、忙しく時間や心に余裕がない時、急須でお茶を淹れるなんて遠い夢のごとし。そう考えると、お茶をおいしいと感じるのは味蕾だけでなく、むしろ気持ちが強く影響しているのかもしれません。
 さて、今日のお茶はおいしいか?たまには自分のためにお茶を淹れてじっくり味わってみませんか?

文:原田亜紀子 絵:土屋弘子