世界基準SUS

今日も、明日も。

かたわらに茶がある日本の未来

sono-1

「富士山と茶畑」

歴史・文化

2024年5月1日

イメージ1-1

 「富士山と茶畑」。静岡と聞いて、この景色を連想する人はきっと少なくないはず。そう、その通り、静岡県には富士山があり、そして日本有数の茶どころです。「富士山と茶畑」として有名なのは牧之原台地で、県内随一といえる茶の生産地ですが、県内にはそれ以外にも、天竜、掛川、菊川、川根、藤枝、静岡、富士など多くの茶産地があります。日本茶の品種は100種類以上あるといわれるほど豊富で各々に個性があります。
静岡の人は茶を「山の茶」「里の茶」と、育った環境でふたつに分けて呼びます。「山の茶」は斜面や頂上付近の、日照時間が短く寒暖差の大きい場所で育ったお茶のことで、静岡県内では天竜川や大井川、安倍川の上流などで収穫されます。一方、広々とした平坦な場所で育つ「里の茶」は肥沃な土地でたっぷりと日光を浴びて育つので成長が早く、牧之原台地では、4月中旬には新茶の摘み取りがはじまります。山と里だけでなく、茶の品種には様々な特徴があり、静岡ではその土地や製法にあわせたいろいろな茶を栽培しています。

夏も近づく八十八夜~♪

イメージ1-2

 今年、2024年の八十八夜は5月1日。唱歌“茶摘”の中でも歌われる八十八夜とは、立春から数えて八十八日目のこと。この八十八夜に摘まれたお茶を飲むと無病息災で過ごすことができるといわれていて、八十八夜茶は縁起の良いお茶の代名詞にもなっています。
 そして、この時期が新茶の摘み取りの最盛期。新茶の摘み取り時期はここのところ、毎年少しずつ早くなっていて、それにあわせて、静岡茶市場では、今年、これまでで最も早い新茶の初取引を行いました。けれど、肝心のお茶の生育はというと、今年はここ数年と比べると少し遅れたのです。というのも、新茶の生育と桜の開花とは密接に関係していて、茶の生育具合と桜の開花状況はほぼ比例しています。静岡の今年の桜の開花は3月30日。例年より6日、昨年より11日遅く観測されました。ある茶農家さんによると、「茶も桜も寒い冬に休むことが大切で、1月、2月の暖冬で少しのんびりしたのでしょう」とのこと。今年は、お茶もゆっくり育っているのでしょうが、実はこれが通常の新茶の季節。これから、静岡県内の茶農家はもちろん、製茶工場、お茶屋さんにお土産屋さんなども年に1度の大繁忙期を迎えます。だから、茶業に関連した仕事に従事する人や家は、猫の手も借りたいほどの大忙し。特に茶農家に生まれたら、大人から子供まで茶仕事に明け暮れるのがゴールデンウィークの過ごし方。けれど、爽やかなこの時期は、静岡を観光するのには最高の季節。青々とした新緑は美しく、駿河湾のサクラエビは今年数年ぶりの豊漁。各所でおいしい新茶が味わえるのも静岡ならでは。皆さんぜひ静岡に遊びに来て、茶業従事者の分も大いに楽しんでください。

“みるい”=未来があること

イメージ1-3

 静岡では新茶のように葉が若くやわらかいことを“みるい”という方言でポジティブに表現します。この“みるい”、「おまえはまだみるい」のように人を表現するのに使うと、「あなたは若く未熟だ」と、ちょっと否定的なムードに変わります。
 けれど、最近静岡ではこの“みるい”という言葉が、ショップやブランド、プロジェクト名で使われるようになり、表現する意味が少し変わってきました。“みるい”はやわらかく、可能性や、未来を感じさせる言葉として、今、静岡ではちょっとしたトレンドワードになっています。「あなたはまだみるいから」が、未知数の将来が待っているねという期待を込めた言葉に変容してきたのです。
 完成されていることだけが正解ではなく、まだ答えが出ていないことを楽しむ。そんな社会になってきたのかもしれません。時代と共に言葉の使い方やとらえ方も変わる。茶の葉のように、いくつになってもみるいココロを持ち続けたいものですね。

文:原田亜紀子 絵:土屋弘子