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「茶と料理のマリアージュ」
歴史・文化
2024年6月14日
食事中の飲み物
食事中って何を飲みますか?
小学校では牛乳、レストランではお冷。いつからだったのでしょうか? ウーロン茶がダイエットに良いと言われてガブガブ飲んだこともありました。でも、最近、健康のためには食事中にあまり水分を摂らない方が良いという説が。というのは、食べ物は胃酸で溶かすことで消化しているので、食べ物と一緒に、水分をたくさん摂ると、胃酸が薄くなって消化に時間がかかるというのです。消化時間が長くなると、胃の負担が大きくなるうえ、血液が胃に集中します。そのため、脳などへの血液供給が悪くなってしまいます。食後、急激に眠くなるのは、食べすぎだけでなく、水分の摂りすぎが原因かもしれません。そういわれてみれば、ランチタイムに冷たいお水と一緒にサンドイッチを流し込んだ後の会議は、決まって眠気が襲ってくるような・・・?
食事中の水分摂取に気を付けることとして。食事と茶には昔から深いつながりがあります。特に日本料理の原点ともいえる懐石料理には茶懐石料理とも呼ばれ、お茶の席で濃茶の前に提供される料理のこと。濃茶は刺激が強く、空腹時に飲むと強い苦みを感じるだけでなく、胃への負担も大きいため、茶の前に食事が出されたと言われています。この原型を作ったと言われるのが、かの千利休。それから、利休の弟子たちによって、その形式が洗練され、江戸時代末期に確立したと言われています。
なるほど、かつては、料理を味わうためではなく、お茶を味わうために料理を供されていたことがあったのですね。ちなみに、懐石料理と会席料理はその目的も料理もまったく別物。懐石料理がお茶のためにあるものとすると、もう一方の会席料理は、宴会などでお酒を楽しむためのもの。一番の違いは、懐石料理が汁物と飯を最初に口にするのに対し、会席料理では最後に食べること。いわゆる〆のご飯ってやつですね。どちらも室町時代の武士たちの本膳料理から形を変えたものですが、懐石という名前は禅僧が空腹をしのぐために、温めた石を抱いたことが語源だそう。食事とは命をつなぐためのもの。どんな食べ物もじっくりとよく噛んで大切に味わいたいものですね。
茶と料理のマリアージュ
濃茶を主役にする懐石もいいですが、もっとカジュアルに、料理とお茶を楽しんでみませんか? 日本茶にはビタミンやミネラル、カテキンやカフェインなど様々な栄養があります。そしてそれらは、茶種だけでなく淹れる温度によって抽出量と質が変わるのをご存じですか? 例えば、濃茶と呼ばれる抹茶にはコーヒーと同じくらいのカフェインが含まれています。カフェインは、眠気を防いで集中力を高めたり、運動能力をアップさせたり、利尿作用があることで知られています。反面、妊婦や小さな子供がたくさん摂取しない方が良いとも。
抹茶以外の茶にも、カフェインは含まれていますが、淹れ方によって、抽出される量が変わります。熱い湯でさっと淹れると多く、逆に低温だとあまり抽出されません。だから、食前には、カフェインが少ない水出し茶か、氷出し茶をじっくり淹れて、ほんの少し口にするのがおすすめ。低温で淹れたお茶は、緑茶特有のうま味成分“テアニン”がたっぷり含まれます。テアニンにはリラックス効果があるので、ゆったりした気持ちで食事をスタートさせるにはぴったり。
さらにカルパッチョやお刺身などの生魚の前菜には、熱い湯で濃く出した上級煎茶をたっぷりのクラッシュアイスで一気に冷やして、シャンパングラスなどで華やかに。すっきりした煎茶の味と香りが魚の生臭さを消すだけでなく、“カテキン”の殺菌効果が食中毒の予防に。カテキンの殺菌効果は、昔から知られていて、お寿司屋さんで粉茶が出てくるのはそのため。まさに生活の知恵。そしていよいよ、メインディッシュ。お肉や油の強い料理には、熱い深蒸し茶がおすすめ。カフェインの脂肪燃焼効果が期待できるうえ、カテキンにはニンニクなど、臭いの強い食材への消臭効果があります。深蒸し茶だけでなく、釜炒り茶などもお好みで。6月はジューンブライド。ワインのように、食材やメニューにあわせてお茶をセレクトし、料理とのマリアージュを楽しんでみませんか?
玉露の季節
日本茶の中でも、高級感のある「玉露」。専用の小ぶりの茶器に、低温の湯をごく少量。じっくりじっくり淹れた茶は、とろりとコクがあってうま味が強いのが特徴です。「玉露」という名前は、今から約200年近く前に、山本山の六代目・山本嘉兵衛が宇治の茶製造場で茶葉を露のように丸く焙ったことからはじまったと言われています。その形から「玉露」と名づけ、江戸に持ち帰りブレイクしたのだとか。
「玉露」の特徴的な味わいは、テアニンと呼ばれる、緑茶特有のうま味成分によるもの。これは、新茶や高級煎茶などにも多く含まれるもので、テアニンは茶葉の生育とともに、カテキンに変化していくもの。茶葉は日光にあたると育ってしまうため、カテキンへの変化を防ぐために、普通煎茶などでも、黒いシートなどで被覆し葉の生育を遅らせる「かぶせ茶」という方法で栽培することがあります。「玉露」も同じように被覆して栽培しますが、かぶせ茶と大きく違うのが、その期間。新芽が出てからなんと20日間もの間、よしずや黒いシートで被覆し、日光を遮り、成長を妨げます。そのため、「玉露」の旬は普通煎茶よりも遅く、6月の初旬から初夏にかけて。そう、ちょうど梅雨入りの頃に旬を迎えるのです。
「玉露」はうま味が強いだけでなく、カフェインも普通煎茶よりはるかに多く含まれています。エスプレッソのようにほんの少量をキュッと一杯。本を片手に梅雨の夜を楽しむにはぴったりかもしれませんね。
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