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「いも、くり、なんきん」おいも編

歴史・文化

2024年9月30日

おいものあらまし

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 毎年、夏が長くなっていますが、暑さ寒さも彼岸までの言葉通り、秋のお彼岸をすぎたあたりから少しずつ吹く風が涼やかになってきました。とはいえ、静岡では9月末になっても最高気温が30度近い日が続いていて、いつの間にか「暑い」の基準が変わってきていることを感じます。
 でも、季節は秋。秋の楽しみはいろいろありますが、今回は、食欲の秋にフォーカスしてみます。皆さんは「いも、くり、なんきん(芋栗南瓜)」という言葉をご存じですか?女性が好む秋の味を集めた言葉で、芋、栗、南瓜(かぼちゃ)のことなのですが、確かに、女性に限らず、どれもみんな大好きな秋の味覚。さつまいもを使ったスイーツはたくさんあって、この時期コンビニなどでも、たくさんのさつまいもフレーバーを見かけます。
 さつまいも(薩摩芋)の名前の通り、さつまいもの収穫量日本一は、鹿児島県。そもそもは中国から沖縄を経由して鹿児島県に伝わったといわれていて、中国から伝来したことから、唐いもや中国での呼び名のまま、かんしょ(甘藷)ともよばれます。
 さつまいもの栽培には、水はけがよく、痩せた、温暖な土地が適しているといわれていて、鹿児島県や茨城県、千葉県などの火山性の土壌で多く栽培されてきました。暖かい土地で育つため、長年、東北や北海道では栽培できないとされてきましたが、この温暖化で最近は北海道での栽培も進んでいます。緑茶と同じように、栽培の北限地域がどんどん北上しているのですね。

おいものチカラ

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 さつまいもは全国でさまざまな品種が育てられ、それぞれが改良を重ね、特徴がある味わいや食感、色や香りでその人気を競い合っています。まず、注目したいのが、食感。さつまいもを表現する言葉といえば、以前は「ほくほく」一択だったのが、最近は、ほくほく系の他、ねっとり系、しっとり系などさまざまな食感のタイプがラインナップされています。昔ながらの焼きいもといえば、ほくほく系で水分が少なめ、甘味も控えめで上品な味わいが主流。紅あずまや鳴門金時などがこのタイプ。少し前に大ブレイクした、安納芋が代表するねっとり系は、クリーミーでとろりとした食感で、甘味が強いのが特徴。種子島で収穫される安納芋が注目を集め始めたのは2010年代のこと。今では知らない人がいないねっとり系のさつまいも。そして、口の中でとろけるようなしっとり系は、シルクスイートなどが代表的な品種で、干し芋などにすると甘味も強くなり、食感と合わせてバツグンの味わい。食感の他に、さつまいもは色でも分類されます。私たちがよく知る、いわゆる黄みがかった白色の他、紫色やオレンジ色なども。沖縄などでよく収穫される紫芋の果肉の紫色には、ポリフェノールの一種、アントシアニンが含まれていて、目の健康に効果があると期待されています。また、アヤコマチなどが有名なオレンジ色の果肉には人参などで知られる、ベータカロチンが含まれていて、抗酸化作用の他、なんと認知症予防の効果が期待できるとか。紫やオレンジ色に限らず、そもそもさつまいもには、食物繊維がたっぷり含まれていて、腸内環境を整える効果があります。他に、カリウムやビタミンCなど美容にうれしい成分がたっぷり。女性に人気があるのもうなずけますね。

おいもとお茶

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 最もシンプルなさつまいもの食べ方は、ふかし芋か焼き芋。いずれもさつまいも本来の甘味を活かしたヘルシーなスイーツとして定番ですが、さらにここ数年、干し芋が大注目されています。干し芋といえば、ゆでたり、ふかしたりした芋を薄くスライスして干しただけのさつまいも。保存食としても昔から馴染みのある定番中の定番食品。それがここにきて注目されたのには訳があります。
 ひとつ目には、さつまいもの品種改良が進んだことで、糖度が高いさつまいもが生まれ、さらにそれを干すことによって、ますます甘味やうま味の強い干し芋が、市販のスイーツと比べても十分においしいと受け入れられたこと。ふたつ目には、昔ながらの薄くスライスした形状だけでなく、おいものまま、ごろっとまるごと干した食べ応えのあるタイプや、スティック状やダイス形などの気軽に口にしやすいタイプなどさまざまな干し芋が販売されるようになったこと、そして、噛み応えのある干し芋の食感で満腹感をもたらすことを利用した、干し芋ダイエットなどの流行で干し芋がヘルシーな食べ物だと広く知られたこと。このように、干し芋は注目を集めることで、さらに進化を続けています。
 静岡県には「うなぎいも」というさつまいもブランドがあって、このうなぎいもを使って作ったサブレやプリンなどたくさんのスイーツが売られています。主に遠州地域で栽培されるうなぎいもは、うなぎの骨や頭などを専用の肥料にして育てたさつまいも。以前なら廃棄されるだけだった素材を利用して育った芋は甘味が強いしっとり系。これを使ったスイーツはもちろん、季節も数量も限定して生の芋も販売されるので、是非召し上がってください。
 ほくほくでしっとり、ねっとりのさつまいもには、焙煎の強いさっぱり系の日本茶がぴったり。今年の秋は、ほうじ茶とヘルシーなさつまいもとのペアリングを楽しみませんか?

文:原田亜紀子 絵:土屋弘子