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想像を超えるアイデアソース

サプライズを創出し続ける人々の
想像を超えるアイデアソースをご紹介します。

2016年03月04日

エコムス営業チーム 関口 宏之さんのアイデアソース

第十回


想像を超える「切実な思い」

いったいあなたは何をしたいのですか
クアトロ・ラガッツィとは、イタリア語で4人の少年を意味します。具体的には1582年、日本でのキリスト教布教の支援をローマ教皇から得ることを目的としてローマに派遣された伊東マンショ、千々石ミゲル、中浦ジュリアン、原マルティーノの4人。本書はこの4人の渡欧とその後の悲劇を軸に、戦国末期の日本と帝国化する世界との邂逅を描いたノンフィクションです。私がこの本を読んだのは2004年5月。それから10年以上の月日が経った今、折にふれ、この本のことを思い出すことが多くなりました。

織田信長の開明的な治世の下、意気揚々と船出した4人。しかし、8年後に帰国した彼らを待っていたのは、他国の文明や宗教を排除する社会でした。日増しに苛酷になる弾圧の中、伊東マンショは逃亡生活の末、1612年に病死。千々石ミゲルは棄教したようですが、その後の消息はわかっていません。中浦ジュリアンは1633年、長崎で拷問により死亡。原マルティーノはマカオに亡命し、1629年に亡くなっています。絶望的な状況に置かれたとき、人は何を誇りに生きていくのでしょうか。お前だったらどうする、本書からは、そんな問い掛けが聞こえてくるような気がしてなりません。しかし、本書を通して、この4人以上に大きな声で私に問いかけてくるのが著者である若桑みどりさんです。

私が若桑さんに出会ったのは、大学院生の時のことです。母校で行われた特別講義で、気迫あふれる学究の徒たる若桑さんの姿に魅了された私は、著作を読むだけでは飽きたらず、当時、彼女が教鞭を執っていた東京藝術大学に忍び込んで、勝手に講義を聴講するなどしていました。それから15年、若桑さんが世に問うたのが『クアトロ・ラガッツィ』です。

私は、新聞の書評欄にこの著作を見つけたときの驚きを、今も忘れることができません。理由はただ1つ。テーマが天正遣欧少年使節だったからです。若桑さんは、日本を代表する美術史家。それまで日本では認知されていなかったマニエリスム美術を日本に紹介した功績は大きく、ミケランジェロやカラヴァッジオ研究の第1人者としても、つとに有名です。西洋近世美術史の世界で、すでに泰斗といわれるような研究者が、なぜ専門外のテーマを選んだのかがわからなかったのです。聞けば、この研究のために大学教授を一時期休職し、ローマ、バチカン、ゴア、マカオで文献を渉猟するなど執筆に8年を費やしたとのこと。そこまで若桑さんを追い立てたものは何だったのでしょうか。

若桑さんは本書の前書きで執筆した理由を次のように書いています。「ミケランジェロをいくら研究しても、私は『西洋美術を理解する東洋人の女』であるにすぎない(中略)日本人として西洋と日本を結ぶことを研究したい。究極、この今の私と結びつくことを研究したい」。地位があるにもかかわらず、使命感にかき立てられ、新たな一歩を踏み出したその勇気は並大抵のものではなかったと思われます。私はこの切実な思いに心を打たれずにはいられません。そして、心を打たれると同時に、若桑さんの声が聞こえてくるようで仕方がないのです。「いったいあなたは何をしたいのですか」と叱咤する声が。

クアトロ・ラガッツィ天正少年使節と世界帝国

若桑みどり
出版社
集英社
価格
(上)940円+税
(下)860円+税