vol.5 高橋淳
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- SPECIAL GUEST 世界最年長パイロット 高橋淳(たかはし じゅん)
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1922(大正11)年10月8日生まれ。東京都出身。
海軍飛行隊として戦場に赴き、以来、小型飛行機のプロパイロットとして活躍。現在も週二回ほど富士川滑空場などで飛行している。
2014年5月 世界最年長パイロットとしてギネス登録。 - (※2015.2.22現在)
- HOST SUS株式会社 代表取締役社長 石田保夫
- STAGE1 92歳、現役パイロット
- STAGE2 過信はしない、真のプロであり続ける
- STAGE3 挑戦を楽しむ「余裕」
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92歳、現役パイロット
- 石田
- 初めまして、高橋さん、お若いですね!
- 高橋
- ははは、ありがとうございます。もう、じじいですけどね。
- 石田
- とんでもない。ところで高橋さんは、昨年ギネスに認定されたそうですね。
- 高橋
- そうです、92歳、最年長の現役プロパイロットです。
- 石田
- 素晴らしい!60年間で地球130周分飛んでいるとか。現在は若手のパイロットの育成をしてらっしゃる。
- 高橋
- 教官として教えもするし、その他に、自作機のテストパイロットもやってます。
- 石田
- 自作機ですか?
- 高橋
- 海外ではね、ホームビルドっていって、パイロットが自分で乗りたい飛行機を自分で作るんですよ。ところが日本は、アマチュアが、模型から始めて本物を作っちゃう。でも自分では乗れないから代わりに乗ってくれって。でも、僕以外、まずそんなのをテストで乗る奴はいないんですよ。
- 石田
- 変な話ですけど、落ちることってないんですか?
- 高橋
- まあ飛行機なんて飛んでんだから落っこって普通です(笑)。海外じゃ、結構墜落してますよ。でも、僕は失敗したことがないですね。
- 石田
- きっと、失敗しないことには理由があるんですよね?
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- 高橋
- 見た目でダメなやつだったらすぐ断わってます。やっぱり、人間と一緒で見た目ってあるんですよ。ひと目見てね、あ、これは飛びそうだな、とかこれは止めといた方がいいとか。プロの勘みたいなものですかね。それとチェック。
- 石田
- チェックですか?
- 高橋
- 僕は自分じゃ70歳くらいから年取ってないつもりなんですよ、都合の悪いときだけ92になるんだけどね(笑)。
普段やることも、飛ぶことも、70くらいの時から全く変わってない。だけど、年と共に、能力から何から当然落ちてるだろうから、何でカバーしようかという事で、普段から必ずリチェックしてるんです。
- 石田
- 二度確認するということですか?
- 高橋
- そう。僕ね、昔からメモしないんですよ。頭に全部たたきこむ。でも、最近は、チェックリストをもう一度最初からやるんです。何か見落としがあるといけないから。
- 石田
- それでミスを見つける事もあるんですか?
- 高橋
- あります。今思えば、若い時からやっていればもっと安全に飛べたと思う。
- 石田
- 若い時はやってなかった?
- 高橋
- 普通フライト用のチェックリストは1回やれば良いようにできてますから、本来はリチェックする必要はないんです。でも僕は大きな間違いをしたくないから自分でもう一度やる。
- 石田
- すばらしいですね。チェックすること以外に、高橋さんの持つ運が良かったということも感じますか?
- 高橋
- 運ね。僕ね運っていうのは待ってても来るもんじゃなくて、最高の努力をして、その先に付いて来るもんだと思ってるんです。
戦時中、飛行機に乗ってて、雨のように弾が飛んでくる中を飛ぶ。その弾を避けるために、最善を尽くしてる時、それは100%の努力している時なんです。汗びっしょりかきますから。
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- 高橋
- あのね、飛行機って、エンジンと、燃料タンクと、パイロットに当たらなければ落ちないんですよ。もちろん、僕の飛行機にも弾は何十発も当たったけど、全部急所は外れてた。だから帰れた。今考えれば、それが運ですかね。
- 石田
- ただツイてた訳じゃないんですね。
- 高橋
- もちろん。あと、僕は生活も仕事も全てが80%です。80%を確実にやって、余裕があるからその先にいけば100点近くにいけると思います。
- 石田
- じゃあ、いつも八割の力でやってるんですか。
- 高橋
- そう。いつも、余裕を持ってなきゃならない。特に飛行機だから飛んでて、なんかトラブルがあった時に、余裕がなかったらとっさに動けない。100%の力を発揮する時は、敵からの攻撃を受けて、弾を避けて、安全な所に出るまでのほんの数分間。
- 石田
- その何分間が100%。
- 高橋
- そう。ほんの一瞬。普段は余裕を持っている方が絶対に良いよね。社長さんは、社員に、100%で働け、120%で働け、って言うわけでしょう?
- 石田
- そうです(笑)。
- 高橋
- ムリ言っちゃいけないよ。120%なんて、出来るわけないんだから(笑)。いつも、100%でやったらね、疲れちゃって、続きはしないよ、そんなもん。野球のイチローにしたって王にしたってね、1回から9回まで100%でやってるかっていえば、やってるわけないじゃん。ピッチャーにしたって、せいぜい7、80%でココって時だけだからね。
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過信はしない、真のプロであり続ける
- 石田
- 高橋さんは、太平洋戦争を生き残った数少ない方ですよね。その理由に努力や運もあった、でも同じような多くの方は戦死していった。その違いは何だったと思いますか。
- 高橋
- やっぱり、精神力の強さだと思うんですよ。僕ね、何としても生き残るという気持ちが強かったんです。当時、僕が操縦していた飛行機は大型機だから、何人もの仲間が乗ってる。こいつらを絶対殺さない、という思いが強かったです。
- 石田
- 一人だけの飛行機より生き残りやすかったということですか?
- 高橋
- いえ、一人乗りの飛行機の方が助かりやすい。僕の乗ってた一式陸攻機って飛行機が、一番消耗します。一人だったら戦わないで逃げてもばれなかった。自ら、死にたいと思っていた人間なんて本当はいないんですよ。
- 石田
- 生きて帰りたい、というような話は軍隊の中でできたんですか?
- 高橋
- 絶対できないです。実際は特攻隊に自分が志願して行く奴は、ほとんどいなかったです。大半は指名されたからしょうがなくってのが本当のところ。僕も一度指名されましたが、直前で解散しました。でも終戦前には僕の部隊は僕一機しか残らなかったです。
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- 石田
- 戦争が終わった時に、高橋さんどう思われました?
- 高橋
- 『これで、助かった。命拾いした』。けどそう思っていたのは、僕だけじゃない、全員そうです。『生きて帰りたい』それが本音です。
- 石田
- 誰もが、生き残りたいと強く思っていた。だったら、生死を分けた理由はなんだったのでしょうか。運命なのか、あるいは直感的なものなのか。
- 高橋
- 直感というのはもちろんあったでしょうし、能力もあったと思います。
- 石田
- タイミングや、動き方は本能的なものですか?
- 高橋
- そうです。だからこそ、飛行機に適性のあるパイロット、あんまり適性は無いけど普通のパイロットの差が出ちゃう。
- 石田
- その差は、訓練を繰り返しても出てしまうんですか?
- 高橋
- 適性がなくても、時間を積み重ねればあるレベルまではいきます。だから戦闘機じゃなければ、時間をかけた方がかえって安全なパイロットかもしれない。完全ってないわけですよ。会社のデスクの上だってとんでもない大間違い、あるでしょう。だけど、パイロットは常に命掛かってるから、みんな努力してるんです。
けど、適性がある奴とない奴の違いは、何かトラブルが起きた時、すぐ対処できるかできないかの違い。できなかったら落っこちる。自信を持つってことはすごくいいけど、それが過信じゃ危ない。大きな事故になるから。
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- 石田
- 高橋さんは、ずっと努力して過信せずにやってこられたのですか?
- 高橋
- いや、僕も4~50歳位の時は、自分は誰より上手いパイロットだと思ってました。けど、今思えばそれは過信だった。幸い、僕は事故もなくてよかったけど。その過信した時期を通り過ぎて、今でも、やはり操縦は難しい、と思います。この頃、やっと多少、安全な、操縦ができるようになったかな?と、思うぐらいです。降りた度に反省してるんですよ。今まで、良いフライトをしたなって感じたことは、数えるほどですね。『はー、今日は気持ち良く降りたな』。なんてのは、本当に一年に一回あるかどうかです。
- 石田
- 高橋さんくらいのベテランでもそうなんですか?
- 高橋
- そうですよ、僕は常に物事に反省してますから。それじゃなきゃ進歩がないでしょう。反省もするし、挑戦もしてるんですよ。
- 石田
- 高橋さんの人生はそれこそ挑戦そのものだと思ったのですが、今もまだ何かに挑んでるんですか?
- 高橋
- まあ、ギネスじゃ最年長のプロパイロットだけども、これを、100歳パイロット、って記録が出来たら、嬉しいだろうな。
- 石田
- すごい!記録は誰にも破れないでしょうね。
- 高橋
- 誰かに破られるより、自分自身の気持ちに挑むってことかな。僕はね、今まで大きな病気にかかったことないの。それはね、自分に治す力があるって信じてるからですよ、気持ちん中で。
- 石田
- 記録よりご自身の気持ちが問題なんですね。
- 高橋
- そう、あとは、いつまでも真のプロでいたいと思うよ。例えば、たまにカメラマンなんかを乗っけて飛ぶことがある。カメラマンは、高額な飛行機代払って撮影する訳です。言ってみたら、お客さん。で、撮影が終わったあとね、『あぁ、今日はおかげで良い写真が撮れた』『ありがとう』と、金払ってお礼を言わせるようでなきゃプロじゃない。そういうパイロットでいたいよね。
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挑戦を楽しむ「余裕」
- 石田
- 高橋さんは、今なお、現役でプロとして挑み続けられていますが、かつて、日本は戦争で大勢の優秀な人材を失いましたよね。それでも、日本の国力は落ちなかったんでしょうか?
- 高橋
- いや、落ちたと思いますよ。その頃、第一線で使われている人ってのは、21か22。今の同じ年頃の人にやれっていったって、とても出来やしないでしょう。
- 石田
- 当時と今では、日本の若者は変わりましたか?
- 高橋
- もう、全然、別だと思う。今の若い人は、とにかくもうゲームやスマホばっかりやってるでしょう。もっと、全てにファイトを持ってくれって、本当に思うよ。闘争心がないよ。何にでも挑戦してそれが自分に向いてなければ、止めてこっちの方やればいいじゃないか。何回失敗したって良いじゃないかと、本当に思う。その内自分に合ったものが出てくる。それが、良い人生をおくるってことだと、僕は思うんだよね。
- 石田
- 挑戦し続ける、その結果が良い生き方になる。という事ですか。
- 高橋
- そういう事。じゃなきゃ、楽しくないでしょう。僕ね、小学生の時から、飛行機のパイロットになろうって思ってたんですよ。だからね、僕はすごく幸せな人生を送ってると思う。金持ちにはならなくても、人生としては最高。
- 石田
- ご自身の人生を最高って言えるって、素晴らしいですよね。
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- 高橋
- ちょっと矛盾するように聞こえるかもしれないけど、僕はね、常に「余裕」を大事にしている。だから挑戦はするけど無理はしない。例えば、何人か集まって飛行機でどこか行こうかっていうとき、『あんまり、天気良くないな、どうしようか?』てなったら、僕は即座に「やめなさい」って言ってる。『どうしようか?』ていう時はもう負けてるから。レジャーなんかで、無理な事しちゃいけない。
- 石田
- 無理はしない。
- 高橋
- そう。天気や風に逆らわないで、上昇気流に乗ればいつまででも飛べるけど、ちょっと無理したらそれで終わりってこともある。人生だって同じこと。無理しないから、また次にチャレンジできるけど、墜落したらそれで終わり。よく、舞台の役者が『舞台で死ねば本望』とか言うけど、こんな迷惑なことねえよね、まして、飛行機乗りが飛行機で死んじゃいけないよ(笑)。
- 石田
- その通りですね。高橋さんが飛行機乗りなら、僕はアルミ屋なんですが、最近、アルミのボルトとナットを開発したんですよ。
- 高橋
- すごい、軽いね。強度はあるの?
- 石田
- はい、鉄と同じ強度があります。
- 高橋
- 軽くて、強い。それはすごいね。
- 石田
- これがいずれ、今までの飛行機の常識を変える日が来るかもしれません。そういえば、高橋さん、著作“淳さんのおおぞら人生、俺流”の中で、いろんな飛行機について語ってらっしゃいましたけど、中でも気に入ってる機種ってあるんですか?
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- 高橋
- 富士川で僕がよく飛んでるのが、“パイパースーパーカブ”てやつなんだけど、これがもう何十年って形が一緒なんですよ。それが今でも僕が一番好きな飛行機。けしてね、美人じゃないけどね。性格がいい女性みたいなタイプかな。
- 石田
- 高橋さんの奥さんもそういう方?
- 高橋
- 昔の人ですから、辛抱強いですね。女房がいたから、今まで好きな人生やってこれたと感謝してますよ。今日も、僕はいつもみたいにジーンズで出かけようとしたんだけど、女房が「社長さんと会うんだったらネクタイくらいしてかないと」って。
- 石田
- じゃ、今日のスタイリストは奥さんですか。
- 高橋
- いや、それは僕。僕はね、年を取っても、オシャレしたいんですよ。日本人って年をとると地味な格好する人が多いでしょ。だけど、本当は年とっても気を使わないといけないよね。僕は昔から、末端にこだわっていてね、爪も自分で磨いているの。
- 石田
- 本当だすごい!本当に毎日を楽しんでらっしゃるんですね。ところで、高橋さんに比べたら、私なんか若造ですが、それでも私、これまでの人生に悔いってないんです。高橋さんにとって「生き抜く」ってなんですか?
- 高橋
- さて、難しい。嫌な事は思い出したってしょうがないんで、僕も過去は振り返らない。振り返って見たことがない。そのかわり、先の楽しみを考える事の方が多いね。だって、一度しかないからね、人生は。だから、楽しく生きたいとは、常に思ってるよ。僕はね、いつ死んでもおかしくない年だけど、まだまだ、死ぬことなんて考えたことない。ただ、抹香くさいことが昔から大嫌いだから、もしも、僕が死んだ時は黒い服なんか着て来ないで、派手な格好でさ、それで楽しい、パーティーやろう、それが良い、という事だけは思ってるの。僕はね。
- ※この対談は2015年1月29日に行われたもので、年齢や時期などは当時のものが記載されています。