vol.1 櫻井朱實
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- SPECIAL GUEST 書家 櫻井朱實(さくらいあけみ)
- 1949年奈良県に生まれる。奈良教育大特設書道科入学。
同時に、今井凌雪先生に師事。雪心会に所属する。
在学中に毎日展、日展入選。結婚して静岡に移る。
市民展市長賞、県展奨励賞、雪心会展雪心会賞を受賞するが
1978年より出産、育児のため書活動休止。
1999年「50にしてふつふつとその思いとめようもなく・・・」で
個展活動を再開。その後、1年に1、2回のペースで精力的に
個展活動を行い現在に至る。
- STAGE1 「挑め」という言葉
- STAGE2 「挑め」を書き上げるまで
- STAGE3 書家の「挑め」
- HOST SUS株式会社 代表取締役社長 石田保夫
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挑めという言葉
- 石田
- 今回は素晴らしい「挑め」を書いていただきまして、ありがとうございました。櫻井先生は、書家としてのデビューが比較的遅かったんですよね?
- 櫻井
- はい。書道は若いころからやっているのですが、いろんな事情で創作活動ができなくて、本格的な活動は50歳から。今年で15年です。
- 石田
- 50歳からの再スタート。すばらしいですね。
- 櫻井
- ありがとうございます。
- 石田
- まさに、櫻井先生こそが“挑む人”ですね。実は私がSUSを創業したのは40歳のときで、今年23年目を迎えるのですが、創業以来、毎年2月に経営計画発表会というのを開催しているんです。
- 櫻井
- 経営計画発表会ですか。
- 石田
- はい、簡単に言うと、次年度の経営をどう進めていこうかというのを発表して、社員全員で確認する会なのですが、次年度の目標は「業務改革」なんです。
- 櫻井
- はい。
- 石田
- ただ、SUSには現在500人近い社員がいるんですが、当然、仕事の仕方も考え方も社員によって違う。だから、会社の目標をもっとわかりやすく、みんなに伝わりやすいメッセージとして表現できないか、ということで決めたのが「挑め」なんです。
- 櫻井
- なるほど。最初に聞いたとき「挑め」って、元気がでる、今の時代にあった、すごくいい言葉、好きな言葉だと思いました。
- 石田
- 好きですか。普段の櫻井先生の性格からすると「挑め」という言葉は強すぎる印象もありますが、そんなこともないんですか?
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- 櫻井
- そうですね、私自身は戦えないというか、日常生活では割と社会と迎合してしまっているんです。勇気もないし。でも実は小さく挑んでいるというか…(笑)。
- 石田
- そうなんですか?
- 櫻井
- はい。だから、作品では凄く思い切ったことが出来るのかもしれません。
- 石田
- なるほど。それでかもしれませんね。この字を見た人は、大抵男性が書いたといいますね。
- 櫻井
- あ、それはありますよね。昔からよく言われます、私の字は男性的だと。
- 石田
- 昔からですか?
- 櫻井
- はい。私は、体も小さかったし、大きな作品を書くときも全身でぶつかっていくという感じでやっていたので、元気がいいっていうか。きれいな字っていうのは書けないんですよ。
- 櫻井
- そうですね。根本的には、変わってはいないんですけれど。もっと、パキッパキッとした感じがあったかもしれません。でも随分落ち着きましたし…。でもやっぱり、多少変わってきましたね。
- 石田
- 何かこう、作品に人生観みたいなものが出るんですか。
- 櫻井
- 私は出したいなと思ってて。だから、上手下手は抜きにして、気持ちがこもっていればいいかなっていう思いで書いているんです。でも、技術は確実に必要なんですけれど。
- 石田
- はい。
- 櫻井
- それプラス、新鮮さ、そのときどきのうれしい気持ちだったりとか、そういうことが人に伝わるといいなっていう思いで書いていますね。
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「挑め」書き上げるまで
- 石田
- ところで、「挑め」という文字は書きやすかったんですか?それとも書きにくかった?
- 櫻井
- さっきも言いましたが、好きな言葉だったので『よしっ』っていう感じで書きはじめて。一見、書きやすかったんですけれども。書いてみると、思ったより難しい。しかも、今回は、駅のホームのサインボードに使うということで、大きさの制約があったので、勝手が違いましたね。
- 石田
- 何枚かご提供いただいた中から、最終的にこの字を選んだのですが、櫻井先生の意図とあってましたか?
- 櫻井
- あってました。実はこれしかないなと思っていた作品でした。
- 石田
- それは良かったです。ぱっと見たとき、僕これがいいなと思って選んだんですけども。いろいろ書くのに苦労されたんだろうなっていう気がしましたね。
- 櫻井
- はい、“兆”の部分の跳ね方は面白くできたのですが…。
- 石田
- 跳ねてる、跳ねてる。全体があの上向きの跳ねでまとまってますよね。すごく力強くていいなと思いました。
- 櫻井
- ええ、でも“め”の位置が難しかった。
- 石田
- “め”の位置ですか。そうなると、書もひとつのデザインですね。
- 櫻井
- 実は、私はデザインも好きで、書だけではなくて現代アートも描くんです。
- 石田
- 本当に好きなのは、書よりもデザインですか?
- 櫻井
- いえ、それはやっぱり書なんです。書っていうのは日本人が伝えるべ きものだし、漢字も伝えるべきものだから。ただ、その中にも、アートの要素は取り入れたいと思っているし、書は一発勝負みたいなところがあるので、思うようにいかないこともあるんですけど。
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- 石田
- 今回の「挑め」を書いたときはどうだったんですか?
- 櫻井
- 選んでいただいたこの作品を書いた瞬間『あ、できた』と思って。
- 石田
- 思いました?
- 櫻井
- はい。『あ、これ、よいかも』って。これね、寝る前に書いたんです一番最後に。それで、『何かちょっとできたかなあ』っていう感じで。でも、これが出来る前は、かなり四苦八苦していたんです。
- 石田
- そうなんですか?
- 櫻井
- でも、書けば書くほどわからなくなって、一回ある人に見てもらって、それで、ちょっと掛けてもらった言葉にすごく影響されて書けるようになったんです。
- 石田
- 櫻井先生でも影響受けることあるんですか。
- 櫻井
- ええ「面白いですね」ってちょっとした褒め言葉なんですけど、それがもの凄いエネルギーになって、その後に書けるようになったんです。
- 石田
- そこで、怒られちゃだめなんですかね、「こんなんじゃだめだ」とか。
- 櫻井
- いえ。怒られて、くそって思って書くときもありますね。学生時にはね、先生によく怒られてましたし、逆境に立たされていると、それを作品にぶつけられるといういい面もあります。でも、誰かに褒められたい、認められたいという思いは、この年になっても心のどこかにやっぱりあるんですよね。
- 石田
- そうですか。それは、櫻井先生だけじゃなくて、誰しもに言えることなんでしょうね。考えてみれば僕なんかもそうですね、社員から「働きやすい」とか、「生きがいを持って働ける」、もちろん業績も含めて「いい会社だね」って言われるとすごくうれしい。
- 櫻井
- 私は、センスのいい人、いろんな物の真髄が分かっている人、本物が分かる人に褒めてもらいたいと思います。
- 石田
- 櫻井先生のような方でも、誰かに褒められたいという思いを持っているのなら、僕は社員をもっと、褒めなくてはいけないかもしれませんね。
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書家の「挑め」
- 石田
- SUSの経営理念の中には社会貢献という言葉が入っていまして、経済活動の中で、社会にどう貢献していくかということを常に意識してるんです。そういう意味で、先生の場合は作品の発表を通じて、社会にメッセージや影響力を与えていますよね。
- 櫻井
- そうでしょうか?私なんか、50歳から制作活動を再開して、60歳で何か少し変われば嬉しいかと。花が咲いたかはわかりませんが、たくさんの方に、本当にいろいろ助けてもらったっていう10年でしたね。
- 石田
- 若いころに勉強した書を、30年間のブランクのあとまた書き始めた。そのモチベーションってなんだったんですか
- 櫻井
- ずっと私は主婦として暮らしていたんですが、あるとき、とにかくいろんなことが身の回りでいっぺんに起こってきて、精神的にとってもしんどくて、追い詰められた時期があったんです。そのときに、たまたま、いろんな人との出会いがあって、理由はともかく書かずにはいられなかったんです。
- 石田
- 書にぶつけた。
- 櫻井
- ぶつけずにはいられなかったんでしょうね。
- 石田
- 何をぶつけたんですかね。
- 櫻井
- 運命や環境に潰されそうな、私自身かな。『私はここにいる』という思い。
- 石田
- 自己実現ですね。晩年になって自己を確立する。すばらしいですね。
- 櫻井
- まだまだです。最近、これだけ書き続けてきたから、ちょっと慣れが出てきたかなと思って、勉強しなきゃならないと思うことがあるんですよ。
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- 石田
- まだ、勉強するんですか?誰かに教えてもらう?
- 櫻井
- いえ、書以外の人にアドバイスしてもらいます。書展を見るより現代アートとか、前衛的な絵画なんかを見て刺激を得ます。
- 石田
- 素晴らしいですね。人の作品を見て、触発されて、また作品を作る。
- 櫻井
- そうですね。
- 石田
- そして、作った作品を誰かに褒められ、認められることで喜びを得る訳ですね。
- 櫻井
- その通りです。
- 石田
- そうすると、書家としての活動って、一見孤独に思えるけれど、やっぱり、社会や人とどう関わっていくかということがすごく大事な気がしますね。
- 櫻井
- そうですね。書斎の中にこもって、たったひとりで書いていたら、なかなか続けられないかもしれませんね。
- 石田
- それは、やっぱり自分の作品を、誰かに見てもらう場面を作り続けていくことが、重要?
- 櫻井
- そうかもしれません。発表し続けることが、生涯の取り組みなのかもしれないですね。
- 石田
- ということは、いくつになっても書き続け、作品で世に訴えていくことが、櫻井先生の「挑め」になるのでしょうか。
- 櫻井
- はい、この言葉を聞くだけでも奮いたつような気がします。これもまた、ひとつの出会いと機会。これからも、書くことで挑み続けたいと思います。
- 石田
- ありがとうございました。