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かたわらに茶がある日本の未来

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「年越し年明け」

歴史・文化

2024年12月26日

平等なもの

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 毎年のことですが、この時期になると急に時間の経過が早く感じます。ついこの間まで夏だったような気がするのに、気づけばもう来年がそこまで迫ってきてしまっている、驚きと焦りと、そして少しだけ楽しい気分。ちょっとした狂騒感とでもいいましょうか、師走ならではの特別な時間が過ぎていく気がします。年を重ねるごとに、時間の経過を早く感じるようになることは『ジャネーの法則』といって心理学的に立証されているようですが、実際の1分1秒は誰にとっても同じ長さ。でも、年を重ねた分だけ早く過ぎていくように感じるものなのだとか。
 一年の締めくくりは、やはり大晦日。新年がより良き年になるようにという強い気持ちが、そこに集約されるからでしょう。いくつになっても年を越す11時59分からの1分はとっても特別に感じられるもの。大晦日に様々な行事を行うようになった歴史は古く平安時代にさかのぼり、当初は翌年の豊作を祈り『歳神様』を迎えるための準備を行った日のことだったようです。
 また、その後、年越しの夜から元日にかけて梵鐘を鳴らすことを、除夜の鐘というようになり、人間のもつ欲望や、怒り、執着などの煩悩を除いて、心の乱れを整えるといわれ、大晦日は多くの人が鐘をつく儀式を行うようになりました。それにしても人のもつ煩悩の数は108とか?ジャネーの法則では時間の過ぎる感覚は年齢に比例して加速するとのこと、なおさらあの頃に戻りたいという煩悩は早々に捨て、今この時間を大切にしたいものですよね。

年越しそば

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 大晦日の楽しみのひとつは、年越しそば。
 江戸時代にはすでに年越しそばを食べる風習が定着していたといわれていますが、本来の年越しそばの意味をご存じですか?「来年が、細く長く生きられますように」など、なんとなく、おそばの形状からそんな風に捉えている人も多いのでは?でも実は、それだけじゃないんです。
 『そば』が他の麺と比べると、切れやすいから、一年にあった災いを絶つという意味で年越しにそばを食べるようになったという説もあるのです。そんな含みもあったのか……。そう考えると、コシが強くて太いうどんなんかをずるずるすするのはちょっと腑に落ちない気もしてきますが、最近はアレルギーをお持ちの方もいるし、テレビやSNSでも年越しにうどんやラーメンを推す声もあり、麺類だったら、かなり選択の幅が広がってきたように思えます。結局のところ一年を振り返って、新年を心あらたに迎える思いさえあれば好きなものを食べるのが一番なのかもしれません。ただし、年越しそばを食べるのは年内まで。うっかり茹でたおそばを目の前にしたまま、こたつでうたた寝なんかして、気が付いたら年をまたいでいた、なんてことがないように気を付けましょう。そばは、打ちたて茹でたてが命。今年の災いも熱いうちにさっさと断ち切ってしまいましょう。

福茶

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 あまり聞きなれない方もいるかもしれませんが、京都には、福茶(ふくちゃ)などと呼んで、大晦日やお正月に特別なお茶を飲む風習があります。地域や家独自の習わしで、淹れ方や具に違いがありますが、煎茶や湯の中に昆布と梅干しなどを入れて飲むお茶のこと。年が明けて、元旦の朝初めて汲んだ水、若水を沸かして淹れたそれを大福茶として、飲んで邪気を払うのだとか。福茶や大福茶と呼ばれるその儀式は、京都で平安時代から続いているといわれていて、六波羅蜜寺に供えられたお茶を当時の天皇が飲んだところ病が快復したことなどから、町の人がそれに倣ったという説や、お茶によって疫病がおさまったという説などから、一年の邪気を払うために元日に飲むようになったといわれています。当時のお茶は薬として扱われていましたし、今とは比べ物にならないほど高価なものだったといわれていますから、一年に一度、年越しに福を呼ぶものとして大切にお茶を飲んだというのも想像がつきますよね。
 今年は、どんな一年でしたか?好きなお茶をのんびりと淹れて、ゆっくりと味わう。それこそが忙しい現代人にとっては、もっとも贅沢な年の瀬時間かもしれません。
 どうぞ、来年も良い年をお迎えください。

文:原田亜紀子 絵:土屋弘子