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かたわらに茶がある日本の未来

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「霜月、霜降月、神楽月」

歴史・文化

2024年11月29日

霜月

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 旧暦の11月を霜月といいます。ここでいう霜月は現在の11月から1月の間のことを指していますが、それにしても、現在の11月は到底霜が降りるような天候ではなく、霜月と言われてもちっともピンときませんよね。そして11月7日頃は立冬。暦の上では冬が始まったという日ですが、半そででも十分に事足りる現在の日本の気温の中では、こちらも「どこの国のお話で?」といった感じ。数年前には異常気象と言っていたこの状況にもどんどん慣れてきて、日本の四季に対する私たちの認識は大きく変わりつつあります。そのうち、夏の次は冬が突然訪れて、四季ではなく二季になる日もそう遠くないのかもしれないと思うと、やはり地球環境についてきちんと取り組まなくてはいけないと、あらためて考える日々。
 さて、11月には、茶の湯の世界では釜を掛ける茶室の炉を開く「炉開き」が行われます。初夏に詰めた新茶を、茶壺の口の封印を切って、その年の新茶を初めて口にして喜びを分かち合う口切りの茶事が行われるのも11月のこと。だから、11月はお茶を嗜む茶人の正月やお茶の正月とも呼び称される季節。その昔、千利休は柚子の色づく頃に、炉を開くのだと言ったのだとか。11月の下旬になっても、山は青々とした今日この頃、今年の柚子はいつ頃色づくのでしょうか?

亥の子餅

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 千利休は、今年の新茶を皆でいただく炉開きの日を、柚子が色づく頃と言ったといいますが、現在は炉開きを11月最初の亥の日に行う風習があります。旧暦の11月は霜月ともいいますが、新暦11月は亥の月にあたり、亥は陰陽五行説によると、水の性質で火の事故を防ぐとされ、火を使う、茶の世界では亥の日に炉開きをする風習ができたといわれています。そして、その口切りの茶事の際にも亥の子餅が呈されることがあるのだとか。亥の子餅、あまり聞きなじみがありませんが、源氏物語の中にも登場するほどその歴史は古く、もともとは、ある地方で、この亥の月の最初の亥の日、午後9時から11時を指す、亥の刻に亥の子餅を無病息災を願って食べる行事食でした。猪の子供をイメージしたまあるく可愛らしいフォルムが特徴で、餅や求肥などで餡を包んでいることだけは共通で味わいはさまざま。
 この風習は中国から伝えられたといわれていて、平安時代にはすでに宮中で食されていたことがわかっています。この餅が、世間に広まっていくのは江戸時代のこと。
 無病息災や火の事故の予防、さらに多産な猪にあやかっての子孫繁栄など、多くの願いを託してこの時期ならではのお菓子として受け継がれてきました。
 残念ながら、ここ静岡ではあまり見かけることがありませんが、日本の四季を忘れぬためにも、来年は亥の子餅を復活させてみるのも楽しいかもしれませんね。

クリスマスティ

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 茶の世界では11月が正月とはいうものの、日常生活の中で、お正月を語るのはちょっと気が早すぎます。暖かいとはいえ師走を目前に街も年末らしいあわただしさと賑わいを放ち始めてきました。
 11月の下旬から、各地でクリスマスイルミネーションが点灯し始め、夜が楽しい季節を迎えています。そういえば、このイルミネーションの点灯、省エネへの配慮か少しずつ遅くなっている気がします。以前は10月の下旬には点灯式が行われていたような?確かに、あれだけの照明を煌々と点けることは、エコロジーでもエコノミーでもないのかもしれませんが、年に一度、この季節に街が照らし出されるのは、やはり心浮き立つもの。こればっかりは、どうにかして継続してほしいものだと個人的には思ってしまいます。さて、皆さんは今年のクリスマス、どう過ごされる予定ですか?
 コロナ禍を経て、クリスマスが家庭内で楽しまれる風潮が日本では強くなりましたが、それまでは、友人や恋人などと出かけていた方も多かったのでは?でも、クリスマスってそもそもアメリカやヨーロッパなどでは、家族と家で過ごす日。そして、イギリスをはじめヨーロッパにはクリスマスの時期に飲む「クリスマスティ」と呼ばれるお茶があります。冬が近づくと、シナモンやナツメグなどのスパイスやオレンジなど柑橘系のフルーツがブレンドされた、クリスマス用のオリジナルティが店頭に並び、クリスマスプディングやミンスパイなどと一緒にテーブルを彩ります。クリスマスプディングは家族が願い事をしながら生地をかき混ぜたり、生地の中に硬貨や指輪、ボタンを忍ばせ、切り分けられた中に、どんなものが与えられたかによって、翌年の運命を暗示するといわれています。ヨーロッパでもお茶とお菓子は縁起を担ぐものなんですね。世界中の人々の幸せになりたいという思いはひとつ。
 これからの季節、お茶と一緒に大切な人と温かい日々をお過ごしください。

文:原田亜紀子 絵:土屋弘子