あなたの「想像を超える」エピソード 受賞作品公開

優秀賞
愛媛県 天野みどり
「結婚20年目の出来事」

 結婚20年目のことだった。夫が、
「どこか旅行にでも行こうか。」と言ってきた。
「どこにそんなお金があるのよ。」と言い返した。すると、
「実は、結婚して毎月千円ずつ貯金してきたんだ。」というではないか。
「えっ!!うそっ。」とびっくりした。1年で1万2千円。20年で24万円。金額にすると大した額ではないが、そのお金で私たちは2泊の小旅行に出かけた。おかげで楽しい思い出ができた。同時にある思いを新たにした。
 私たち夫婦は、私の一方的な思いで結婚することになった。当時、夫にはもうすでにきまった相手がいるような噂があった。その他にも夫に好意をもっている人が何人かおり、とてもモテていた。ふつう、あきらめるだろうが、私はひきさがらなかった。実はその時、親の薦める意にそぐわない相手との結婚話があった。一生を共にする人は夫以外にはないと思っていた。だから、だめでもともとあたってくだけようと思った。夫に告白すると、意外にあっさり、
「結婚しよう。」の返事だった。あまりにも簡単にOKしてくれたので、世の中こんなこともあるんだとびっくりした。まわりの人は、あの子は布団を担いでおしかけていったと大ブーイングだった。しかし、両親は喜んでくれてスムーズに結婚の運びとなった。ただ、私たちはお互いに向かい合うことなく新婚生活に入った。結婚ってもっとラブラブだと思っていた私は拍子抜けだった。結婚してすべてがバラ色に変わると信じていたのに昨日と変わらない毎日があるだけだった。そうこうしているうちに子供が産まれ平穏な日々を送っていた。ただひとつ、ずっとひっかかることがあった。それは、なぜ夫は私との結婚に承諾したのかということである。結婚できたのだからいいじゃあないかといえばそうなんだけど、いまひとつ確かめたかった。夫に聞いてみた。夫の答えは、
「さあー」であった。何回きいても同じだった。こんなことを問いただす私も私だ。でも、私は確認したかった。女の人は言葉に出してくれないとわからないという人が多い。わたしもそうだった。しかし、そんなことも月日がたち日々の生活に追われて私の気持ちは風化していった。そんな時にこの出来事である。おろかな思いにとらわれていた私に比べ、夫のこの行動はどうだ。実に建設的だ。あっぱれである。変わらない気持ちを持ち続けることはむずかしい。千円ずつ貯金し続けたのは、夫なりの私への気持ちだったのだろう。そんなことも知らずに過ごしてきたことが悔やまれた。夫の20年間の思いに感謝である。これから、希望に満ちた将来を共に歩んでいこうという気持ちを強くした結婚20年目の出来事だった。